「みっちゃん」の愛称でお馴染みの波多美知子さんは海士の郷土料理はもちろん、野山や海岸を自分の足で歩きまわって採ってきた食材をアレンジして、創作料理を作ることが大変得意な方です。五感塾では、いつも美味しい料理をふるまっていただいています。また、民謡や踊りも大変得意で、宴会の場の盛り上げ役です。そんな波多美知子さんに、五感塾に講師として参加することの面白み、そして巡の環に思うことを聞きました。(聞き手:阿部)
――五感塾ではいつもお世話になっています。五感塾1回目に料理の先生として参加していただいてからというもの、今では毎回料理をつくっていただいていて、もう本当にみっちゃんあっての五感塾ですよ。五感塾にはどんな気持ちで向かっておられます?
みっちゃん そりゃあこっちは運営側だから、喜んでもらうために一生懸命に情報でも料理でもしようとするわね。それで、参加する側は「どんなことをしてくれるんかな」という受け身な感じで、楽しもうって思うのが普通でしょ?
ところが五感塾にくる人たちは、毎回入れ替わって人が変わっても、積極的に何かを吸収しよう、盛り上げようっていう気持ちが強い。もう喜び方が普通じゃないわけよ(笑)。
もう、こっちが「こんなのでいいのかしら?」って思ってしまうほど。
時折巡の環のメンバー全員で、みっちゃんの家で、ごはんをいただきます。
――分かります。僕たちも結局、プランはしっかりつくるんだけど、最終的には来てくださった方々が五感塾の醍醐味をつくっていく。
みっちゃん 参加してくる人も普段は大変だと思うよ。大都会で、大きな会社でもまれて、相当ストレスがたまっているだろうに、全然そういうところを見せないね。それがすごいと思う。
こっちの暮らしは「ちょっと今月は金がないからつけといて」なんて店に言っておけばなんとかなるくらい大らかなとこだけど、都会は生活も勤めも大変でしょ。会社の中でも外でも、どっちが上に行くかのせめぎ合いの中で切磋琢磨してる。
だからもっと血走った眼をしててもいいようなものなのに、そんなことは一切ない。一生懸命楽しもうとしているのが目で分かるのよ。まったく、こっちが学ぶことが多いくらいよ。それに、五感塾は頭と心にずっと残る経験だから、私にとって大切なものだわね。
――五感塾で教えるという立場になって、みっちゃんの人生で大きく変わったことって何でしょう?
みっちゃん 私の性格が変わったね。もともとアガリ症だし、人前に立ってしゃべるとか、歌をうたうのも実はあまり好きじゃなかった。
それが五感塾に参加するとなると、もうそんなこと言ってられない(笑)。最初は何をしゃべればいいのか分からなかったけど、飾り立ててもしょうがないか、と思って、ちょっと一発笑ってもらえたらいいや、ぐらいの気持ちで話しているうちに慣れてきた。まあ、まだ人前は嫌なところもあるけれどね。人前に出るの好きだったらもっと金儲け出来とったね(笑)。
『あらめの炒め煮』ひじきに似た味の海藻「あらめ」を干大根、にんじん、しいたけ、ひらてんで炒め煮に。これだけでご飯1膳は軽い。
――AMAカフェオールスターズでも、みっちゃんには東京まで来てもらって、料理をつくっていただいた。
みっちゃん 農家の向山さんやらといっしょに行ったわね。いろいろ大変だったわ。「どんなことやろう?」って話を始めたのが2009年の夏だった。地元の食材でつくった料理を出すってことで、島の大根やらこじょゆやら、鯛まで持ち込んでね。で、東京の会場に着いたら「あ!出刃包丁がない!」ってことで、当時巡の環にいた「かのーる」(叶:2012年3月に巡の環を卒業)が走り回って買ってきてくれたりして、もうドタバタで終わっていった。おかげでその冬に自分が食べる大根やこじょゆがなくなっちゃったわ(笑)。でも、本当に楽しかった。
――漁師さんはもちろん、町長にも来ていただいたし、最後にはみんなでキンニャモニャ踊りをおどって。あの時に参加してくださった島のみなさんとは本当に仲良くさせていただいて、自分たちがチームに加えてもらえた気がして、本当に嬉しかったんです。
みっちゃん 私らも楽しんでいたわよ。メンバーの中には「巡の環のおかげで、はじめて東京行かせてもらったわ」って人もいたわね。
『イカの姿煮』新鮮なイカを、醤油やみりんで煮る、島の定番料理。プリプリの食感と、イカの出汁が食欲をそそる。
――初めに巡の環を見て、どう思いました?
みっちゃん 阿部くんはね、まるでまっすぐ立った木みたいな男だなって思ったわよ。長男って感じがしたわ。親に大事にされてきた雰囲気があって、何かしてあげたくなる感じがしたわね。でも、長男タイプは人に嫌われないのよ。巡の環というより、私にとっての印象は、個人としての阿部くんが先だったな。
――親に感謝ですね(笑)。これから巡の環には、どんなことを期待されますか?
みっちゃん あなたたちはね、私たちが忘れてること、知らず知らずのうちに見すごしていることを引き出してくれるからありがたいと思ってる。農家の向山さんもそう思ってると思う。
私らは島で、本当に何気なく生活しているから、それが価値があるかなんて、分からないもの。
たとえば、夏にもずくや、さざえを海にとりにいって、身だけ冷凍庫でストックする。山椒や筍でも時期が限られるから、旬のときにとって、冷凍庫で1年分ストックする。こうしておくと1年を通じていつでも食べられる。都会の人はそういう生活をしてないからね。田舎におったら自然とそうなってくる。それが、五感塾とかで見に来てくれた人にとって、面白く思ってもらえたり、価値のあるものになってくれたらいいなって思う。
そして、巡の環は気楽に私たちを動かしてくれる。それはありがたいなぁって思ってる。いつまでも身近な存在でいてほしいね。でも、身近にばかりいてても、会社として成長していかないといけないわけだからね…。でも、そうなったとしても、一番近くにいさせてもらえたら嬉しいと思ってます。
――ありがとうございます。もちろんこれからも変わらないですよ。いつも美味しいご飯ありがとうございます!
アジは本当に美味しい出汁が出るので、新鮮なものが入ったら、お刺身だけではなく、ぜひシチューで楽しんでください。
材料(4~5人分):アジ2~3匹、ニンジン1本、じゃがいも1個、玉ねぎ1/2個
調味料:塩、こしょう、片栗粉、酒、しょうゆ