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奥田和司(おくだ・かずもり)
1959年、海士町生まれ。1978年より、海士町役場で勤務。町産業課・課長を勤めた後、2005年より、次世代の凍結技術「CAS」を海士に導入すべく、山内道雄町長とともに「株式会社ふるさと海士」を設立。現在は同社が運営する「CAS凍結センター」で社長補佐役として勤務する。
 
 
海士町では、白イカ、サザエ、岩牡蠣等の新鮮な魚介類が採れます。それらは島内にある『CAS凍結センター』で冷凍され、全国へ出荷されます。そして『CAS凍結センター』は、第三セクター『株式会社ふるさと海士』によって運営されています。同社で社長補佐役を務める奥田和司さんは、海士のCAS商品において様々な取り組みをされています。五感塾の講師でもある奥田さんに、商品開発を通して見える海士らしさについて話していただきました。(聞き手:阿部)
 
 

【「海士らしさ」という両刃の剣】

――奥田さんは海士が誇る冷凍技術である「CAS」事業の、いわば代名詞的存在です。うちのツアーでも、本当によくお世話になっています。改めてですが、CAS事業にはどんな気持ちで向かっておられますか?

 

奥田:CAS事業を行う『株式会社ふるさと海士』では地元の特産品を作ること、地産地消を広げること、そして外に向かって発信することを行っている。そのためには、本当に海士に根付いているものを、海士らしいやり方で届けることを大切にしている。

 たとえばCASには「寒シマメ(イカ)しゃきしゃき漬け」という商品がある。これはイカの耳と肉厚で甘みのある上身を使い、丁寧に漉した肝を使った醤油ダレで味付けしたものだ。

 イカの耳というのは、通常食べないものだ。しかし、イカが豊富に獲れ、生活の一部になっている海士に住んでいる人たちは、たまに食べたら旨いことは知っている。つまりこの商品には、海士の人が子どもの頃から五感で覚えていることが生きているわけだ。

 

――商品づくりではどんなことを心がけておられるのでしょうか?

 

奥田:常に葛藤している。本当にものづくりとして非効率さを超える思いがないと、海士らしさが出ない反面、最終的に作ったものはいろんな販売店を通して出ていくわけだから、売りのことを考えると、海士らしさ一辺倒で好きなことをやるわけにはいかない。そのあたりの加減が難しい。

 話題性のあるCASも、まだまだ現状の顧客だけでは持続可能とは言えない。よって、特徴を出すための試行錯誤と、お客様の身銭に合わせた商品作りの観点の両方を持って商品開発を進めなければいけない。課題は山積みだ。

 

――CASで冷凍し、株式会社ふるさと海士で販売されている商品の多くは、地元の人たちの協力によって成り立っていますね。味付けも、ほとんどが地元の主婦の方々によるものだったりする。まさに本当にふるさとの味を直送しています。

 

奥田:それらすべてが商品として本当に受け入れられるかは分からないが、やはり海士の中にある個性の積み重ねが生きている商品をつくることと向き合わなければやっていけないことだと思っている。

 お客様に合わせてばかりの商品作りをしてしまうと、海士らしくなくなってしまう。しかし、海士らしさを出しすぎると、商品としての採算が取りにくい。ここまで折り合いがつきにくいことから、やはり海士は食の面でも本当に個性が強い島なのだということを再確認させられる。

 

【継続こそが財産】

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――奥田さんにとって、海士らしさとは何でしょうか?

 

奥田:そうだな、それは地区それぞれに個性があるということだろうな。しきたりはないけれど、こんな小さな島でも住んでいる場所ごとに違った祭りがあったり、譲れないものがあったりする。

 まあ、外から来たもんはそれを見て「いいなあ」と言うてくれる。珍しいもんだからな。でも、住んでるもんからしたら、「ああ面倒くさい」ということも多いものだ(笑)。祭りをやるためには人手も要るし、時間もかかる。しかしそういうことなしには、伝統や文化を築くことはできない。

 それを続けているというところが海士のいいところでもあるだろうな。

 

――続いているということは、守られているということだと思うんです。守ろうとする人がいるからこそ、続くことができる。そして海士は、続いているものを大切にする。だから、歴史や伝統をきちんと伝えていくことができる。

 

奥田:海士のような隠岐の離島であれば継続したことがすべての財産だ。継続してきたものの中に価値を見いだすことが何よりも大切だと感じる。

 

 岩牡蠣を見ていてもそうだ。海士の名産になった岩牡蠣「春香」は、『海士いわがき生産株式会社』が情熱を持って名産に育て上げたものだ。あの会社もずっと頑張ってやっている。思うように数量や規格もとれてないという問題はあったけれど、CASがずっと注目を浴びているのは、岩牡蠣が目を引き続けてくれているからだ。それは、あの会社のひたむきな継続と、実績に裏付けられているといえる。

 また、CAS成功の鍵を握っているのは白イカだ。味付けも島の人の手で行われ、漁師の収入源としても一番大きく、CASの売り上げでもトップだ。

 岩牡蠣で注目を浴びて、イカで確実な収益を上げていくために、これからも戦い続けたいと思う。

 

 

 

【五感塾は、島の使命感を育んでいる】

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――巡の環は、奥田さんにとってどんな会社ですか?

 

奥田:正直なところ、よう分からん会社だ(笑)。

 

――(笑)。

 

奥田:よう分からん会社だが、巡の環は地元への入り方が上手いし、入っていって自分たちが学んだことを、外の人に発信して価値にしている。さらにそれが回りまわって海士の人たちにとっても価値のあるものになっている。これは今までの海士にはなかったことだ。

 コンサルまがいのことはつっぱねるが、阿部くんらは海士にしっかり根付いているから、地元にきちんと落ちる稼ぎだと私らも喜ぶことができる。こうした地域コーディネーターの部分を、島の外の業者に出すほど馬鹿らしい話はない。それをやってくれていることは、海士にとって大きいことだ。

 

――うちの事業の中で、奥田さんにとって面白いものは何でしょう?

 

奥田:五感塾は面白いな。昨年はサントリーの方々が来られたときにうちの社員も参加させてもらった。

 まあ私は、五感塾でもひたすらイカの話をしとる。しかし、ずっとイカの話ばっかりしているわけにもいかんので(笑)、こちらも試行錯誤をしているよ。お客さんには決して安くはないお金を負担して、ここまで来てもらっているわけだから、こちらも海士らしさを伝えないといけないという気持ちになる。

 

――五感塾は、海士に来てくださる人たちには大変ご好評いただいているのですが、実際に海士にいる人達には、どんなものとして受け入れられているのでしょうか?

 

奥田:私らは確かに海士に長く住んでいる。しかし、海士らしさとは何かというのをふだん考える時間もなければ余裕もない。こうした機会があるから考えられるというものだ。そんな意味で、五感塾は島内の人にとっても「気合いで頑張れ」「理詰めで頑張れ」といった、紋切り型の企業研修と違った意味をますます持ってきていると思う。

 継続してやろうと思ったら海士の人間も、一層自分を磨かないといけないという使命感で向かっていける。それが五感塾の、真の島内への価値だろう。

 五感塾を通して、私ら自身の考えに磨きをかけていくことは、企業研修とは直接関係ないように見える白イカ一つ売ることにも、大事な気づきになるだろう。

 来年も再来年もと五感塾をやっていく中で、私らも同じことを話しているわけにもいかん。いっしょに切磋琢磨していこうと思っとるよ。

 

――ありがとうございます! 現在、地域コーディネーターの養成を目的とした「めぐりカレッジ」もスタートしています。奥田さんにはまた、教壇に立っていただきたいと思っています!

 

 

2013年3月21日 14:20