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向山剛之(むこやま・たかゆき)
1947年、海士町生まれ。10年近く前からアイガモ農法などの無農薬農法に取り組み、2000年に「農事組合法人サンライズうづか」を設立。後継者育成や農地の荒廃を防ぐ活動を行う。巡の環とともに「日本の原風景を未来へ繋ぐ田んぼツアー」を通し、農業の大変さ、収穫の喜びを伝える活動を展開する。
昔の島の農家がアヒルを田んぼに放って害虫を食わせていた、ということを聞き、アイガモでやってみてはどうかと手さぐりの状態から生まれた「アイガモ米」。今や年間契約は売り切れ御免の、AMAWebデパートの人気商品。

島の農家である向山剛之さんは海士で農業を始めて40年以上。その間、日雇いの仕事をしたり、会社勤めや役所勤めをしながらも、決して農業をやめることはありませんでした。1991年より本格的な農業の機械化に踏みきったほか、「子どもたちに安全な食べ物を食べさせてあげたい」と、1996年から

「アイガモ農法」など減農薬の農作物を作り始めます。五感塾の講師でもある向山さんに、海士で農業を営むことの思いを語っていただきました。 (聞き手:信岡良亮)

 

 

【きれいごとでは語れない、島の本音】

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信岡 今回はお忙しいところありがとうございます。あの、僕たち会社の企業譚を1冊の本に・・・

 

向山 ああ、本か。それはいいことだ。でも、島のいいところばっかり書いてもらっては困る。悪いところ、厳しいところもある程度書いてもらわないと。メディアはいいことばっかりしか言わんから。この島で生きていくことは本当に大変だいうことを言わないと、島に来てから「話が違う」って言う人が多いからな。

 

信岡 もちろんです。僕たちの企業譚の他に、島でお世話になったいろんな人にインタビューをして、その人たちの本音のインタビュー記事を載せていきます。島の人たちに面目のたたない本になったらダメだと僕も思っています。

 

向山 うん。そこまでやって書かんと面白くないと思うわ。きれいごとばっかり書くことは、ほとんど“騙し”だ。島の暮らしが厳しいことは地元の人が一番分かっている。

 

地元の人の子どもがなんで大きくなったら島を出ていくかというと、小さい頃から島の厳しさを見てきているからだ。島には働く場所がない。この島で本当に身を粉にして働くなら、漁師でも土建屋でもあるだろう。でも、それら厳しい仕事は親が望むことではないし、子どもも望まんだろう。だから親も子どもにいい大学に行かせて、いい会社に就職させることしか頭にない。子どもを地元に返そうって人はほとんんどいないよ。

 

有名な大学に入ったとか、一流企業に入ったとか、親はみんな自慢するもんだ。でも、わしはこの島で学歴は必要ないという考えしかない。この島では頭だけでは食えん。だからわしの子供にはこの島にある産業と関係する学校以外は行かせなかった。

わしの子どもは海が好きだったけん、船舶関係の学校に行った。学んだ操縦の技術を生かして、今は隠岐観光の観光船に乗って務めている。そうでもしないと島に戻ってもなかなか仕事はない。普通の机に座っているだけの仕事なんて、ここにはいくらもない。役場に入るのも大変だ。頭がいいから入れるわけでもないし、他の世界と一緒でコネもあれば裏もある。

私はそういうもんだと思っとるからいいけど、よそから来た人が生活しようと思ったら大変だ。裸一貫で来て成功した人はみんな死に物狂いで働いてきた人ばかり。今でいうIターンの人も昔からけっこういたが、成功して財をつくった人だけが今に残っている。

それだけこの島で生まれたもんは、生活することが大変だと身を持って知っている。だから巡の環は本当にようやっとると思う。わしはどんなことがあっても応援しようと思っとる。

 

【この島で遠慮しとっちゃダメだ】

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信岡 本当に最初からお世話になってばっかりですよね…。

 

向山 それはあんたらが頑張っとるからだ。少しでも役に立てばと思って、いろんなことをこっちから提案したり、提案も受けたり、そんな関係でもう5年か。

 

信岡 向山さん、なんでそんなに僕らを助けてくれるんですか? 本当に手間ばっかりかけてるのに。

 

向山 そりゃ、あんた達がいいけん、人がいいけん。阿部君もあんたも川ちゃんもな。

 

信岡 でも僕たち、向山さんの手間増やしてばっかりじゃないですか。企業研修の五感塾をやるとなったら、まず向山さんだし、島外の人といっしょに農作業をする「田んぼツアー」でも、いつもお世話になりっぱなしです。

 

向山 手間? そんなこと考えるな。わしができることなら、なんぼでもしてあげるよ。これまで、いろいろ相談されて「ダメだ」っていったことないやろ?

 

信岡 ほんと、確かに「できん」と言われても「ダメ」と言われたことはないですね…。

 

向山 そうだろ。あんたたちがしっかり頑張って、儲けて、嫁さんをもらって元気にやってもらわないと困る。ひとりでおったってダメだけん。なんぼ頭がいい大学出ても、ひとりでいたらダメだ。この島でひとりはさみしい。やっぱり稼いで家庭を持って一人前になってもらわないと、我々も信用できないんだわ。ひとりもんがひょっこり来ても、なかなか親身に話がしにくい。いつ逃げていくか分からんけん。でも、阿部君や信君は信用してるけん。

 

信岡 いろいろイベントやってますが、世話になってばっかりで役に立ってるんですかね?

 

向山 世話になりっぱなしでいいけん。いつかわしらも世話になるときがあると思ってる。わしらに世話になったことをあんたたちが忘れんかったら、いつか恩返しの時期が来るかもわからん。世話になるときはなればいいだわね。この島で遠慮しとっちゃダメだ。というのも、それは信用の証なんだ。お互いに信用しないと甘えられないから。だから甘えるのはいいことだけん。甘えられるときにしっかり甘えて好きなことを言えばいい。そしてまた、自分が協力したり力になれるときに、しっかり力になればいい。だからまたAMAカフェオールスターズで東京に行けと言われたらわしは行くけん。

 

信岡 AMAカフェオールスターズの時ほど、海士っていいなと思ったことはなかったです。僕らの何かを信用してもらえた気がしましたし、「チーム」に加えてもらえた気がした。

 

向山 みんな、阿部君やあんたの人間性で、ひとつになれたんだ。あんたらはイベントでも何でも、本当にみんなであったかく迎えてくれる。それがみんな嬉しいんだわ。

 

あと、あんたらから学ぶことも多い。あんたらは何かやったら必ず、反省会をやって次に繋げるヒントにしている。見習ったりもするし、反省会に呼ばれて行ってみて、わしも発言してみたり。何かやっても、やりっぱなしにしないことは大切なことだ。まあ、なんにしても、まあがんばってもらって、しっかり儲けてもらわんと。

 

【島では体で覚えたことがすべて】

 

信岡 実際に五感塾に参加されて、どうですか?

 

向山 わしのようなもんでも話をしたら多少何かの役に立つのかなぁという気持ちでやっとるね。話すことは今までの経験くらいしかない。自分が島で60年学んだこと、中には苦労話もあったり馬鹿話もあったりするが、16で働き始めて貧乏のどん底から這い上がって体ひとつでやってきたことだけは自慢できる。この島がすごいと言ってくれる人もいるし、島の暮らしは大変だときちんと分かってくれる人もいる。そうした反応を見れるというのは、面白いと思っとる。

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信岡 「田んぼツアー」はどうでしたか?

 

向山 わしの田んぼも貸したし、技術的なことも教えているし、機械関係も揃えさせてもらいましたね(笑)

 

信岡 全部お世話になってます(笑)

 

向山 田んぼに関しては巡の環は素人だけん。技術的なことは全然分かっとらん。日曜日は疲れて寝てて、田んぼに出てくることもないし。もうちょっとはっぱかけてやらないといけんかなぁと思っとる。たとえば農業は雨が降ったら作業ができない。だから今日が晴れていたら、他の仕事はストップしてでも一日早めに済ませられることはしてしまう。これが農業の基本だ。そういうこと、つまり農家の頭の使い方なども教えていきたいと思っとる。

 また、参加してくれた人には、ここで作業したことを忘れんでいてもらいたいというのが一番強く思うことだね。また行ってみたいという気持ちになってもらえればいい。欲言えば、お米を少しでも買って帰ってもらえればなお嬉しいね。そうやって長い付き合いを持ってくれると、こっちとしてもやった甲斐が感じられる。

 

信岡 僕たちはこの島でなんとかがんばっていくつもりですが、僕たち本当にこの島で役に立ってますかね?

 

向山 まだまだだわな。巡の環が何をしている会社か分からない人も多いかと思う。わしは分かってるけど。まあ会社としては、給料もらって、ボーナスもらって、というところまでいかないといけない。だからわしが出資するって言ったのに、わしに「会社のっとられる」ってあんたら断ったわな(笑)。

 

信岡 いやいや、のっとりは思ってませんよ(笑)。出資されたら、永遠に出資してもらわないとやっていけなくなりそうなだけです。まあ、それがそもそも会社として問題なんですが(笑)。

まず自分らでがんばるところと、甘えるところを区別しないといけないと考えた結果ですよ。やりたいことがあって、そのために助けを求めるのはいいけど、自分たちが食べるために助けは求めたくないですねぇ。

 

向山 見ていて思うのは、やっぱり巡の環は今の事務所の他に拠点をつくるべきだ。インターンシップの人が来たらきちんとワンルームで泊まれるような、そんな拠点があるといい。

 

わしとしては、手を差し伸べられるところから差し伸べようという気持ちでおる。本当は泥んこになって体で覚えてほしい。他人から聞いたことは忘れても、体でしたことは忘れんからね。私らはいつも泥んこになってやってるから、よう分かる。

 

信岡 向山さんにそう言われると、本当に頭があがりません。ありがとうございました。

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2013年4月10日 20:27