北村 三郎 氏
人と情報の研究所 代表
昭和11年、私は東京の下町に生まれました。昭和36年にいすゞ自動車に入社、35年間のサラリーマン生活を過ごしました。
昭和40年ごろまでは職場でも地域社会でも人と人との「つながり」があり、日々、その「つながり」に助けられて生きていました。
高度成長に入って豊かな暮らしができるようになりましたが、その一方、人と人との「つながり」が失われていったように思います。
そして「他人より自分」という風潮が広がり、職場の同僚はチ−ムの仲間というよりは競争相手という感覚のほうが強くなっていきました。
そのようになった一つの原因は企業が競って導入した管理手法にあったと思います。その管理手法というのは行き過ぎた「成果主義」「効率化」「標準化」などのことです。
高度経済成長が続いている間は、その管理手法はそれなりに機能していましたが、バブル崩壊後は職場の「つながり」は希薄になり、自主性のない依存社員が増えたり、心を病む社員が増えるなど、弊害のほうが大きくなっていきました。
50歳を過ぎたころ、私は「つながり」のある職場を取り戻したいと考えて、職場風土改革にチャレンジを始めました。
15年前、会社を定年退職しましたが、今でも「組織風土改革」をライフワークにして、同じような問題意識を持っている企業、労働組合と取り組んでいます。
改革活動をやっているうちにわかってきたことは、「つながり」というのは、家庭、地域、学校などの日常生活の中で身につけるものだということでした。
この「つながり」が大切という感覚は知識として学ぶものではなく、実際に「つながり」を体験しながら身体に染み込ませていくものだということもわかってきました。
そのような体験による学習の方法を試行しているうちに辿り着ついたのが「五感塾」という方法です。日本は島国ですが、島国の島、つまり離島があり、その離島には昔から伝わってきた「つながり」を基本にした暮らし方、生き方が残っています。
私はそこに注目し、海士、佐渡、奄美などで「五感塾」を実施してきました。
離島では「つながり」が当たり前で「お裾分け」「分ち合い」が日々、行われています。
これからグローバル化がますます進みますので、私たちの日常は「経済性」「合理性」の追求に拍車がかかるでしょう。
その一方で、地域社会がもともと持っている日常の生活、「隣近所とのおつきあい」「ふるさとを思う気持ち」「他人を思いやるこころ」「その地域に伝わる伝統」などを都市の日常生活でも取り戻していけば、もっと生きやすく、暮らしやすくなるのではないかと思います。
人生の長い時間を過ごす職場でもお互いに知恵を出し合って協力して仕事ができれば会社生活も楽しくなるでしょう。
私たちが目指す幸せな人生はWORK(働く)、LEARN(学ぶ)、ENJOY(楽しむ)が一体化されている日々を過ごすことだと思います。
「僕たちは島で、未来を見ることにした」には海士でのごく普通の日常、そしてその日常から将来のあり方に夢を広げていく若者たちの思いが描かれています。
この本を読んで、現地に足を運んで、少しでも現地の日常を体験することができれば、あなたの意識と行動はきっと変わっていくでしょう。