購入できる全国の書店

西村 佳哲 氏

西村 佳哲 氏

 

自分の仕事をつくる』著者
リビングワールド代表


 若い人たちが、みずから「これからの暮らし方や仕事」を模索してゆくとき、大人にはせめて邪魔をしないで欲しいと思う。海士町の行政には、未来を拓いてゆく動きに対して協力的というか、同じ方向を見て一緒に歩いてゆく姿勢がある。I・Uターン人材を求める地域は無数に存在するが、その点において海士はとても恵まれている。アドバンテージがあるように見える。
 
 が、それは「自分でやってみよう」とする人がいて、初めて展開するものだ。与えられたお膳立ての上で能力を発揮するのではなく、条件がまるで整っていない〝にもかかわらず〟なにかを始めてしまう人たち。誰に頼まれたわけでもないのに、街角に立って突然歌い始めるような人たち。事業を始めるとか店をひらくというのは、そういうことだと思う。この本を読みながら、そんな連中の存在に触れる嬉しさがあった。
 
 あと、本の編集が上手い。これは第3の書き手である編集者のセンスによるところ大なのだろう。とくに前半がとても読みやすく、村上春樹が『ハードボイルド・ワンダーランド』で試みた2つの世界の同時進行のような感じで、信岡良亮・阿部裕志のテキストが交互に織りなされてゆく。複数名の著者によって書かれた本が面白かったり読みやすかった経験は過去に一度もないのだが、この本は素敵な例外だった。編集を担当した森オウジさんに感謝したい。